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東京高等裁判所 昭和35年(ラ)383号 決定

抗告人 宮前嘉之吉

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、抗告理由。

別紙記載のとおり。

二、当裁判所の判断。

先ず抗告の適否につき判断する。仮処分執行中の動産につき価額の減少を避けるため換価を命ずることは強制執行の方法の一であるから、これに対する不服は仮処分の執行に準用される民事訴訟法第五百四十四条の規定による執行裁判所に対する異議の申立の方法によるべく、その決定に不服がある場合にはじめて即時抗告をなすことができるのであつて、ただ右執行処分が当事者を審尋した上でなされた場合に限り、これに対する異議の申立を経ないで直ちに即時抗告の申立ができるものと解すべきところ、本件においては、原裁判所は債務者を審尋することなくして換価命令を発し、これに対し債務者たる抗告人は強制執行の方法に関する異議の申立をなすことなく直ちに本件即時抗告の申立をなしたものであるから、この限りにおいては右抗告は不適法というべきである。しかしながら記録によれば右抗告申立を受理した原裁判所は、再度の考案のため期日を開いて債権者及び債務者を審尋した上抗告人の主張は理由がないとの判断に到達し、その旨の意見を附して事件を抗告審たる当裁判所に送付したこと明らかであるから、現在においては、抗告人をして原裁判所に執行方法に関する異議の申立をなさしめ原裁判所による執行処分是正の要否の判断を受けさせる必要はなく、抗告人は現在は執行方法に関する異議申立の手続を経ないで原処分に対する即時抗告の申立につき抗告審の判断を受ける法律上の利益があるということができる。すなわち右のように執行裁判所が当事者を審尋しないでなした執行処分に対し執行方法に関する異議を申立てることなく直ちに即時抗告をなした場合においても、その後執行裁判所が再度の考案のため当事者を審尋した上抗告は理由がないものとし、その旨の意見を付して事件を抗告裁判所に送付したときは、その時から即時抗告の前示瑕疵は治癒されたものというべきである。従つて本件抗告は不適法として却下すべきではない。

よつて抗告の本案について判断する。記録編綴の仮処分執行調書、斎藤槌磨の証明書及び原裁判所の審尋調書の各記載を総合すれば、本件換価命令の目的物件は四十五度以上の急傾斜面の山林内に伐採放置されている皮付のままの檜丸太で、そのまま放置するにおいては虫害、腐朽、流失等による著しい価額の減少を生ずる恐あるものと認められるから、これを競売し売得金を供託することを命じた原処分は相当でおり、抗告人主張のような違法の点は認められない。なお、記録を精査しても原決定にはこれを取消すべき違法の点がないので、本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 位野木益雄)

抗告の理由

1 抗告人は前記住所に居住し亡父宮前荒三と同居して生活して居たが父は昭和七年拾壱月弐拾四日死亡したのでその遺産である本件土地山林九反八畝六歩を昭和八年十月二十一日受附第三五八号により家督相続による所有権を取得し爾後本件山林に対し植樹なし之が管理を継続し現在に至つたものである

2 抗告人は多野郡鬼石町塚本貞儀に自己所有の本件土地に存立している立木檜六十八本を昭和三十五年三月九日建築材として売買契約をしたその際塚本氏に対して抗告人は隣地との境界を充分調査して之が確認の上在木を売買したものである右木材の伐採は買受人塚本方で人夫を使用して伐採し之を搬出し出石にて計算し該木材の買受石数に該当する全額即ち金五万円は本年四月末日に支払ふ約にて売買したものである

従つて右立木は塚本が人夫二人を使用して全部之を伐採したものですが本材は一本も他に搬出してあらず現地に保存してあります

3 該立木の保管してある現地より他に搬出その他盗難の虞はなく現地は甚しい斜面で水流もよく本件立木は一年経つても全然腐蝕の心配はない状態だから早急に換価の必要はない

尚本件山林より抗告人宅の横合いを通る道路が一本にして如何なる人でもこの道路を通らなければ立木の搬出もできないので充分監督できるから盗難の虞れはない

4 被告人は本件仮処分に対し材木は塚本貞儀に売買したるにより塚本は建築請負人であるから無論建築に必要な木材であるから指定日時までに立木の処理がつかないと塚本は之に対し損害賠償の申立を強行して来るものと思われます

依つて抗告人は本件仮処分に関し異議申立準備中であります。

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